2013年7月29日月曜日

堀辰雄『風立ちぬ』

アニメーション映画「風立ちぬ」の感動さめやらぬ中、その元の一つになった、堀辰雄の小説『風立ちぬ』が、iPadの「青空文庫」でただで読めるので、読みました。

小説の方が、当然、細かく描かれています。

サナトリウムでの生活を丁寧に叙情豊かに描いていて、あまりハラハラドキドキのストーリー展開はありません。

派手な展開はないのですが、美しく描かれています。

しんみりとする作品です。

Wikipediaによりますと、三島由紀夫はこの『風立ちぬ』を褒めていました。

一方、評論家の大塚英志の『江藤淳と少女フェミニズム的戦後』によりますと、同じ保守思想家でも、江藤淳は堀辰雄を、「自らの出生に関わる父母の記憶を曖昧化している」として手厳しく批判したそうです。

曰く「しかし、もし仮にそのような仮構が成立し、文学的にも正当化されうるとすれば、堀辰雄はたちどころに「堀辰雄」以外の何者かに変身して、堀濱之助の子でも上條松吉の子でもなくなり、いわば任意の父の子となることができる。その時、作者は、複雑な出自の重さからはじめて解放されて、虚構の保証する時空間の中に望むままの擬似的な人生を夢みることができる」(『江藤淳と少女フェミニズム的戦後』)

ところが、江藤は晩年に、彼が批判した堀辰雄の『幼年時代』と同じ題名の連載を始めます。
大塚氏はそれを聞いて、「危うい」と感じたそうです。
その後、江藤は自ら命を絶ちます。

詳しいことは知りませんが、江藤にとっても堀辰雄は、なにか特別な意味を持っていた存在だったのかも知れません。

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