2015年8月10日月曜日

『アダルト・チルドレンと癒しー本当の自分を取りもどす』西尾和美

『アダルト・チルドレンと癒し—本当の自分を取りもどす』西尾和美、を読みました。

著者はアメリカでアダルト・チルドレンの治療を行っている心理療法家です。

アダルト・チルドレンとは、本書によると「機能不全な家族で育ち、自分や自分のまわりの人たちに問題を引き起こし、生きづらさを抱えている人たち」のことで「大人のくせに大人になりきれない子どもっぽい人たち」や「大人のような子ども」の意味ではありません。」「アダルト・チルドレンという言葉は、アダルト・チルドレン・オブ・アルコホリック(アルコール依存症の親をもち、いまは大人になっている人たち)からきたものです。最初は、アルコール依存症の人がいた家族で育った人たちが、どのような心の障害をもつようになったかが注目され、この言葉が使われました。しかし、その後、ドラッグやギャンブルや虐待など、いろいろな問題のある家族で育った人も同じような障害をもつようになっていたことがわかり、そうした、安全な場所として機能しない家族で育った人々をみな含む言葉となり、現在、アメリカでACA、ACOAといわれる場合、アルコール依存症の親に育てられて大人になった人たちだけでなく、各種の機能不全な家族で育てられた大人たち(アダルト・チルドレン・オブ・ディスファンクショナルファミリー)も含んでいます。」

著者自身が虐待を受けて育ったそうです。

「アメリカで、私は自分の癒しのためにいろいろなサイコセラピーを経験しました。そして、ある日、夢を見ました。アラスカの、氷でまわりが真っ白になっている港に自分の船が到着するのです。すると、いろんな人種の人たちがどこからともなくでてきて、私を迎えてくれ、みるみるうちに氷がとけていき、大きな歓声がわきあがったのです。不思議なことに、それ以来、父に怒鳴られるというフラッシュバックと胸のドキドキは消え去り、それからは一度も起こっていません。私がこの夢を見たときは、もう三十歳もなかばになっていました。私は癒しに全力で取り組んでいましたが、癒しというのはこのように非常に長い時間のかかるものです。」

この様な著者が、アダルト・チルドレンの定義とその実例、そしてその癒しの方法を記したのが本書です。中には、生々しい近親相姦の描写等があり子どもには見せづらい部分もありますが、これが役に立つ読者も多くいるでしょう。

ではアダルト・チルドレンを生みだす「機能不全家族」とはどんな家族でしょうか。
本書では「「機能不全家族」とは、メンバーの安全が守られず、適切な保護が与えられず、一人一人の人格が尊重されない家族」といいます。

そして具体的に、著者は次の様に挙げます。

身体的虐待

性的虐待

精神的、言葉の虐待
・仲が悪く、怒りの爆発する家族
・愛のない冷たい家族
・親の期待の大きすぎる家族
・他人の目を気にする、表面だけよい家族
・秘密があまりにも多い家族
・親と子どもの関係が逆転している家族
・子どもを過度に甘やかし溺愛する家族
・アディクションのある家族

面白いことに、著者がいうには、アメリカで色々な家族を見てくると、各国で家族の形は様々ですが、虐待は人種に関係なくどのような家族にも起こりうるらしいです。

ひどいトラウマを受けるとPTSD(心的外傷後ストレス性障害)をおこしたり、解離という症状をおこすこともあります。
PTSDの主な症状は、出来事を何度も思いだすフラッシュバック、記憶の部分的欠如、身体的精神的パニック、日常に興味がもてなくなる、他人と自分とは違うと感じる、感情の鈍磨、希望の欠如、不眠、怒りの突然の爆発、集中力の低下、いつもびくびくする、小さいことでひどく驚きダメージを受ける、等です。
解離(ディソシエーション)の主な症状は自分が自分からはなれてしまって、自分ではないかのように感じたり、二重人格のように人格が二つ以上に分かれてしまったり、トラウマの記憶が失われてしまったり、知らないうちに知らないところにいってしまったりする、等です。

また、アダルト・チルドレンは「共依存」にもなりやすいといいます。
「共依存」とは、自分のことよりも相手の世話にのめりこんでしまい、相手をますます無責任にしてしまうような人たちのことをいいます。
依存症のまわりには、必ずといってもいいほどそれを支える共依存の人がいるといわれています。
著者は共依存の特徴をいくつか挙げていますが、面白かったのは、「共依存の人はアディクションなどの問題をもった人に知らないうちに惹かれて恋に陥りやすいので、あまりにも強い引力を感じる人のそばには近寄らないことです。一目惚れなどしたら、さっと反対の方向に走りましょう。胸がどきどきしているのは、相手の機能不全さと、自分の機能不全さがマッチして、共鳴しているからで、愛のときめきではないかもしれませんから、注意しましょう。」というものです。

アダルト・チルドレンの癒しにはいくつかポイントがあります。
それを次に挙げます。

1.トラウマがあったことを認める。
2.安全な場を確保する。
3.秘密や想い出を表現する。
4.自分のせいでないことを自覚する。
5.肯定的な意味づけを、害のあった経験に与えていく。
6.感情に直面し、嘆きの作業をする。
7.できなかったことを表現し人生のやり直しをする。
8.内なる子ども(インナーチャイルド)をいたわり育てる。
9.不全な考え、行動等を分析する。
10.自分を受け入れ、許し、トラウマを与えた相手をできるだけ許す。
11.少しずつ成功できる行動を生活の中に組み入れていく。
12.新しい健全な考え、行動等を初歩から学ぶ。
13.自分でできる癒しの活動、自助グループへの参加等をする。

これらの活動は、一人でできることもあればセラピストやカウンセラーの助けを借りたり、自助グループに参加したりすることが役に立つこともあります。

そして、著者が実践している精神療法「リプロセス・リトリート」の紹介があります。
それは、以下のような内容から成り立っています。

1.リチュアル-自分の問題に決着をつける儀式。
2.ジャーナリング-自分の心の傷を書いてみる。
3.アートセラピー-心の傷を絵や粘土、コラージュ等で表現する。
4.ボディーセラピー-からだを動かすことによって解き放つ。
5.イメージセラピー-心の傷や癒される過程、インナーチャイルドなどをイメージする。
6.メディテーション-からだや心の奥からのメッセージに注目する。
7.話し合い-経験を話し合い、分かち合い、支えあう。
8.リプロセス-サイコドラマ(心理劇)などの体験的精神療法。

リプロセス・リトリートはカウセリング等と違ってからだを動かしたりする体験的な精神療法で、効果的だといいます。

最後に、では機能的な家族とはどういうものかという考察で終わります。
本書によりますと、「機能的家族とは、安全さと愛情と保護を提供し、子どもをあるがままに受け入れ、各自の個性や気質が認められ、意見や感情、思考の表現がうながされる家族です。それぞれにもわかる適切なルールがあって、しかしそれは硬直したものではなく、メンバーの発達段階に合わせ、柔軟に変化するものでなければなりません。」

そして、著者はいいます。
「親をむやみに批判して、それで終わりというのは、無駄なことです。親自身もまた、たとえそう見えなくとも、自分の不健全な行動に苦しんでいる人間の一人なのです。親も自分もいたわりながら、新しい、機能する家族をつくっていきましょう。」

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