2015年8月9日日曜日

『アダルト・チルドレンと家族』斎藤学

「アダルト・チルドレンの呼称は、診断の道具ではなく、まして人を誹謗するためのラベル貼りの手段ではありません。それは過去をとらえ直し、現在を理解し、将来を再構築するための手掛かりを与えるものです。(本書より)」

アダルト・チルドレン(AC)をもう一度、はっきり理解するため、昔(1997年刷)読んだ『アダルト・チルドレンと家族 心のなかの子どもを癒す』斎藤学を読みなおしました。

ACに関する概要と、その治療法が書かれた本です。

アダルト・チルドレンについて書かれた最初の本は1969年カナダでだされた『忘れられた子どもたち」というものだそうです。
その後1980年代にアメリカでアダルト・チルドレン運動といえるような運動があって、その概念が広く知られるようになります。

アダルト・チルドレンという概念はアルコール依存症の治療現場から生まれました。
アルコール依存症の親のもとで育った、静かで控え目な自己破壊的ともよべるような他者献身的な子どもに注目して、その人達をACoA (Adult Children of Alcoholic アルコール依存症のもとで大人になった人達)と呼ぶようになりました。
この本では、アダルト・チルドレンをアルコール依存症の問題に限らないで論じています。「親との関係でなんらかのトラウマを負ったと考えている成人」と広く定義しています。
その中には、「虐待する親」「機能不全家族」のもとで育った人も含まれます。
「機能不全家族」とは、父親が仕事依存であったり、やたら冷たかったり厳しかったりする家族のことです。

健全な家族とは、子どもにとって安全基地であり、その中で自らの自己を十分発達させることのできる家族です。
それが機能不全家族では、見たものを見ないことにし、感じたことを感じなかったことにすることが日常おこなわれます。その結果、言葉は敵視され、しゃべることに罪悪感を覚えるという独特の雰囲気がつくりだされます。

そんな中で育った子どもに共通しているのは、自分の都合ではなく家の中の雰囲気、母親の顔色、父親の機嫌などを優先して考えることです。

ジャネット・ウィティツによるとACoAの特徴は、以下の通り。

1,何が正常かを推測する(「これでいい」との確信が持てない)
2.物事を最初から最後までやり遂げることが困難である
3.本当のことを言った方が楽なときでも嘘をつく
4.情け容赦なく自分に批判を下す
5.楽しむことがなかなかできない
6.まじめすぎる
7,親密な関係を持つことが大変難しい
8.自分にコントロールできないと思われる変化に過剰反応する
9.他人からの肯定や受け入れを常に求める
10.他人は自分と違うといつも考えている
11.常に責任をとりすぎるか、責任をとらなさすぎるかである
12.過剰に忠実である。無価値なものとわかっていてもこだわり続ける
13.衝動的である。他の行動が可能であると考えずに一つのことに自らを閉じこめる

さらに、著者はACの特徴を述べます。

「ACは周囲が期待しているように振る舞おうとする」
「ACは何もしない完璧主義者である」
 ACとは、極端に自己評価が低い、自尊心を損なわれた人。なにかをすると厳しい批判の声がけなすので怖くて手が出せない。他人から見ると奇妙で突発的なかたちで職場を去ったり、家に閉じこもったり、自殺をはかったり、窮鼠猫を噛むといった暴力事件をおこしたりして周囲を驚かす。
「ACは尊大で誇大的な考え(や妄想)を抱えている」
「ACは「NO」が言えない」
「ACはしがみつきを愛情と混同する」
「ACは被害妄想におちいりやすい」
「ACは表情に乏しい」
「ACは楽しめない、遊べない」
「ACはフリをする」
「ACは環境の変化を嫌う」
「ACは他人に承認されることを渇望し、さびしがる」
愛を渇望して失望すると、それが怒りに変わることがある。ACの心の中にはこのような怒りが隠されている。それが、抑うつ感、無気力、喘息、潰瘍性大腸炎、過食・拒食症、薬物依存、ギャンブル依存などのかたちになって現れることがある。
「ACは自己処罰に嗜癖している」
窃盗癖、手首きりなどがあるが、窃盗などは意識的にしている訳ではない。抑うつ、無気力、自殺願望、アルコール、ドラッグ、過食・拒食などもふくまれる。また「達成後の抑うつ」というものもある。希望が達成したあとにひどい抑うつと無気力に陥ることが多い。
「ACは抑うつ的で無気力を訴える。その一方で心身症や嗜癖行動に走りやすい」
ACは他人に承認されない怒りとさびしさを抱えている。その苦痛を「退屈感」へと感情鈍麻させていく。そこから嗜癖へいくことが多い。嗜癖の対象としては、アルコール、ドラッグ、食物、仕事、ギャンブル、窃盗、買い物、恋愛、共依存、子どもへの侵入、等。
「ACには離人感がともないやすい」
離人感とは「自分が自分でないような感じ」

これらがアダルト・チルドレンの主な特徴です。

そして、それからの回復の道は3つの段階を踏むといいます。

1.安全性の維持
2.回想と悲嘆
3.人間関係の再建

これらの回復過程は、決して楽なものではありませんが、治る人がいることは事実です。

アダルト・チルドレンは正式な精神医学用語ではないようです。PTSD(Post Traumatic Stress Disorder 心的外傷後ストレス障害)は、精神医学用語のようですが。
しかし、確実にこのような機能不全家族で育って苦しんでいる人がいる。しかも、これは意識の問題ではなく、本人にはどうしようもない無意識のうちに起こることです。つまり、本人の甘えとか怠惰の問題と誤解されがちですが、本人の責任とはいえないものなのです。さらに、適切な治療で回復可能なのです。ですから、民間の概念と馬鹿にしないで精神医学の世界でも、このような生育環境での機能不全を真剣にとりあげてもらいたいものです。

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