2015年8月15日土曜日

『永遠の少年』M-L・フォン・フランツ

『永遠の少年 『星の王子さま』 ―大人になれない心の深層』M-L・フォン・フランツ、を読みました。

ユング派の女性分析家による、小説『星の王子さま』と、作者サン=テグジュペリの分析です。

「永遠の少年」とは、ユング心理学がいう「元型」のひとつで、永久に大人になれない心性のもとになるものです。

「元型」とは、「大辞林」によると「ユングの用語。神話・物語・文芸・儀礼に見られたり、個々人の夢や幻覚・幻想のなかに見られる、時代と文化を超えた人類普遍的な心像(イメージ)や観念を紡ぎ出す源泉として想定された、仮説的概念。太古型。」です。

「永遠の少年」の元型に捕えられた人は、大人になる事の責任をとらずに、永遠に子どものままでいようとします。
著者は、そんな「永遠の少年」=「王子さま」に捕えられたサン=テグジュペリに厳しい態度で臨みます。
それは同時に、大人になりたがらない現代の「永遠の少年」に対するものでもあります。

訳者の文庫版のあとがきには、この本が出版されたときには読者から強い反発があったとあります。
また、単行本版のあとがきでは、ある女子大学でテキストとして本書を使ったところ「耳が痛かった」という反応が多かったそうです。

僕自身も、大人になりたくない気持ちが今でも強い方なので、「耳が痛い」と思いました。しかし同時に自分のことを理解してくれているという気にもなりました。本には付箋をたくさん付けて、興奮して読みました。

残念ながら2015年現在、絶版ですが、現代の「永遠の少年」には必読の書ではないかと思います。

著者もユングもいっている通り、「子ども」は良い面と悪い面がある両義的なものです。
本書は必ずしも「子ども」の全てを否定しているわけではありません。ただ、その負の側面を強調しているのは事実です。この本だけを読むと落ち込むかもしれません。

この本では、大人になれないことを「母親コンプレックス」が原因だとしています。そして、それをあたかも倫理的に批判しているようにも見えてしまいます。(著者は批難しているわけではないと強調しているが批難しているように感じられてしまう。)しかし、「アダルト・チルドレン」の本などを読むと、人がうまく大人になれないのは「機能不全家族」による「家族内トラウマ」が原因であることがあります。(サン=テグジュペリも冷たい家庭で育ったそうです。)その場合、本人を責めるのではなく、安心させ、嘆きの仕事をし、そして大人の人間関係を学ぶことが治療につながります。
ですから本書の分析は見事なのですが、大人になれないことをただ批判しているだけでうまくいくのか疑問な点もあります。

しかし、大人になりたくない人にとっては良書であることは間違いないと思います。

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