2015年8月11日火曜日

『自己愛家族 —アダルトチャイルドを生むシステム—』ステファニー・ドナルドソン-プレスマン、ロバート・M・プレスマン

『自己愛家族 —アダルトチャイルドを生むシステム—』ステファニー・ドナルドソン-プレスマン、ロバート・M・プレスマン(Stephanie Donaldson-Pressman and Robert M.Pressman,The Narcissistic Family Diagnosis and Treatment)(ザ・ナルシシスティック・ファミリー 診断と治療)を読みました。

アダルトチャイルド(複数形=アダルトチルドレン)が生まれるシステムを解明し、その治療法を提示した本です。

アダルトチャイルドとは、「アルコール依存症のアダルトチャイルド(Adult Child Of Alcoholism :ACOA)」の略で、アルコール依存症の家族のもとで育って、成人になって本人や他人に心理的に困難な事態を引き起こしてしまう人のことです。

アダルトチャイルド(AC)の人は、本書によると「常に自己評価が低く、親密な関係を保つことができず、そして(あるいは)自己理解への道が閉ざされているように感じて悩み苦しんでいる。」といいます。

ACは、本来はアルコール依存症の親に育てられたり、深刻な虐待を受けて育ったりした人をさす言葉でした。

しかし、著者が働くロードアイランド心理センターでは、ACの特徴を持っているのに、親が飲酒をしなかったり虐待がなかったりする場合が見られるようになってきました。

この人たちは、「いつでも人の世話をやこうとし、感情や欲望や欲求に鈍感で、絶えず人の承認を求めるといった共通の行動特徴をもっていた」。
また「何か悪いことが起これば、それは自分にふさわしいことだと感じ、一方良いことが起こるとそれは間違いか、偶然に起こったに違いないと感じていた。・・・彼らは物事をはっきり主張することに困難を感じ、いつも怒りの感情が表面化するのを恐れて、それを感じることが難しかった。・・・しばしばひどく怒るけれど、簡単に打ち倒されてしまう張り子の虎のように自分を感じていた。・・・彼らの人間関係は不信と疑い深さ(パラノイアとの境界にある)が特徴的で、しばしば全面的で無分別な信頼と自己開示によって生じた悲惨なエピソードに散りばめられていた。彼らは、慢性的な不満感を抱きながら、本当の感情を表すことで、不平や泣き言を言う人間だと思われることを恐れていた。・・・極端に長期にわたって怒りを抑えられる限り抑えてきた。そこで比較的些細な事柄に爆発してしまうのである。彼らは、自分の成し遂げたことについて虚無感と不満足感を感じていた。これは、外面的には非常に成功したと思われる人々の間にすら見出された」。といいます。

この本では、親がアルコール依存症でないのに、アダルトチャイルドと同じ様相を呈する人を、ある観点から考察しています。

それが著者が「自己愛家族」と名づけた交流のパターンです。
その特徴とは、「親側の要求が子どもの要求より優先されるということ」です。

「私たちは、自己愛家族の中では子どもたちの要求が、両親の要求の二の次にされるばかりでなく、しばしば後者(親)にとって重大な問題性を持つということを発見している。もし自己愛家族をよく知られた発達スケールのどれか(たとえばマズローや、エリクソンのものなど)に従って辿ってみるなら、もっとも基本的な信頼と安全についての子どもの要求が満たされていないことを発見するであろう。その上、その要求を満たす責任が、親の側から子どもの側へとシフトされているのである。このような家族の状況では、親が子どもの要求に応じるよりも、子どもが親の要求に合わせているのである。実際、自己愛家族は親システムの情緒的要求を処理することで消耗してしまう。自己愛家族では、両親の要求を満足させるために子どもたちが動員されるのである。」

「自己愛家族では、子どもの行為は子どもが何を感じ、経験しているかに関して評価されないで、その子どもの行為が両親システムに与える影響という観点から評価される。」

「自己愛家族では両親の反応によって、子どもたちは自分の感情を制限されるべきもの、あるいは取るに足りないものであると思うようになるのである。」

「子どもが問題を持っているのではなく、子ども自体が問題なのである。」

「さらに言えば、子どもは何かを必要としているのではなく(読書障害、不安、発達遅滞、抑うつ等の治療)、ただレッテル(怠け、馬鹿、わらいもの、へま、というような)を貼ることだけがあるのである。子どもの行いが両親へ及ぼすその結果こそがもっとも重要なことなのである。」

その結果、子どもたちはどうなるのでしょうか。

「このような子どもたちは、多くの時間をかけて、自分の感情が取るに足りないもの、あるいは否定的なものであることを学んでいく。彼らは自分の感情を切り離すようにし始め、それらを感じないまでになる。しばしばこの感情の否認は、子どもにとって実用性がある。なぜならそれらを表現することは、ただ火に油を注ぐことになるからである。自分自身の要求を理解し、それに気付き、承認する代わりに、このような子どもたちは自分の親たちの要求に対して、大げさに反応する感覚を発達させる。実際、彼はその両親の情緒的要求を映し出す影になるのである。親の要求は絶えず移動する標的のようで、子どもはそれに照準を合わせることが難しい。子どもたちは力とコントロールを持たないまま、状況を改善する責任を感じているので、失敗したという思いを発達させる。さらに彼らは自分自身の感情を是認し、自分自身の要求を満たす方法を学ぶことに失敗する。まもなく子どもたちは半永久的な感情喪失に陥る。成人になって、これらの人たちは自分の悲しみやフラストレーションや不満がさまざまに変化するのを感じる以外には、自分の感じていることに気付かないようになるかも知れない。」

そこからの回復の過程について、

「・・・そこには子どもの頃に、親たちが行ったことについて自分には何の責任もないし、またそれをコントロールすることもできなかったのだと患者が理解すること・・・」「また、彼らが大人として自分の回復をコントロールする力を持ち、それに責任を持っているのだということを理解すること・・・」「言い換えれば、機能不全の家族出身の子どもは、家族の機能不全によって作られたとしても、大人になればもはやそれによって左右される必要はないのだということなのである。」


アルコール依存症も虐待もない機能不全家族をどう考えるか。この点について、本書の見解は妥当で有効だと思います。

親の情緒的要求が子どもの要求に優先する。そうすると子どもは親の情緒的要求に合わせて、自分の感情を否定して行動しなければならなくなる。
それが、ある種のACを生みだす機能不全家族の構造だとする見方は、なるほどうまく分析したなと思いました。

ただし、本書は民間のカウンセラーが書いた本なので、学問的にはあまり認められてるようには思えません。それが残念です。

著者は「自己愛家族」とは、研究へ一つのフレームワークを与えたものだといいます。
このフレームワークを利用して考える研究が増えればいいなと思います。ですが、この概念は本書以外では見たことがありません。

しかし、僕のAC理解には非常に役立ったと考えています。非常に良い本だと思いました。

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