2009年12月29日火曜日

残酷


12月15日「芸術人類学(最終回)」中沢教授

前回は映画「世界残酷物語」を見た。

動物を殺したり、食べたり世界の残酷なシーンを集めた作品だが、今見るとそれほど残酷ともいえないものもある。

今回はまず「残酷」について。
「残酷」とは、そっちに行き過ぎると人間の真実に近づきすぎるのでいっちゃいけないというサイン。こうしないと社会が成り立たなくなる。

19世紀からヨーロッパは不安定なシステムになる。
17、18世紀はヨーロッパは安定していた。

音楽でいうと、モーツァルトは安定していて、ベートーベンは少し不安定。シューマンは不安そのもの。
ロマン主義からモダニティへ移行してさらに不安定に。
近代になって、我々は「人間の本性」を問わなくなった。(危険だから)
危険なものを排除する「監視社会」になっていった。

ところどころに安全装置を作っておく。
哲学、芸術=外部を内部に取り入れる。人間という境界概念が壊れてしまうかもしれない。

1960〜70
cruel=「残酷」があるのに隠されている。
人口が増え、動物を大量に殺して食べているのに、見えなくしてきた。
アルトー
「私たちの本性に残酷が隠されているのを自ら剥ぎ取ってみよう」
「生」の裏には必ず苦悩がある。
「それを認識させること」=「残酷」
アルトーは演劇でそれに挑戦したが、彼は「バリ島の演劇」「歌舞伎」など個人を超えた力を参考にした。

19世紀から、生の現実を見ないで、個人の心理を描く。=「近代」
しかし60年代、アルトーの精神病院で書いた手記が重要視された。

今、我々は無意識まで管理されている。遺伝子まで管理されている。

宮本常一「土佐源氏」
もと牛飼い(ばくろう)の盲のじいさんの話。
何も、教養ないのに何故か女にもてて、多くの女と関係を持った。
女性が差別されていた時代。
牛飼いは、動物と人間とを同じ目線で見る。
だから、もてた。

ルソーの「透明なコミュニケーション」のレベル。
これを社会は抑圧する。
「残酷」と烙印を押す。

しかし、そこで描かれていたのは「とてつもなく、やさしい」世界だった。

日本の思想では「もののあわれ」

本当の「やさしさ」を持った者は残酷。
抑圧されたもの=見すてられたもの=とてつもなくやさしい

やさしさを獲得するためには何かと戦わなければならない。

今は、「やさしい残酷」ではなく「冷酷」な時代。

「インセスト」
「カニバリズム」
「残酷」
すべて「やさしい」

犬の頭なでてやるのみではない。

以上。

一年の授業を終えて、私はデザイン学科なので芸術学科の授業は聴講を先生が許していただいたので出られた。中沢先生はもちろん名前は存じ上げているが、本は読んだことがなかったが、他の学者となんか全然違う世界をお持ちのような気がして、実質20回もなかったが、たまたま同じ大学に来ていただいて、この授業を聞くことが出来て、とても恵まれてると思った。この「芸術人類学」の授業に出たかどうかで私の人生も変わったかもしれない。
私は最後に「残酷」について話されるので、「人間は残酷なものだとこころえよ」というのかと思ったら、最後は「やさしさ」でおわった。もちろんその前に、人間のタブーに触れることも多く言及されているので、単なるものごしがやわらかというレベルの「やさしさ」ではないのだが。最後に「やさしさ」でおわったのが意外で、自分なりにどう解釈すべきか考えた。
最初に思い浮かんだのが、レヴィ=ストロースが「悲しき熱帯」で、インディオたちが夜、愛を交わすシーンを見て、心にしみたが、彼は近代人なのでいずれこのような素朴な愛はなくなるだろうと考え「悲しき」熱帯とタイトルに書いたことを思いだした。レヴィ=ストロースが見た未開人の愛、それは我々日本人にも「源氏物語」等で知ることができる。その繊細な、素朴な「やさしさ」を思いつつ、それは近代人が捨ててきたものだという現実も見なければならないと思った。

その時は思わなかったが、大ヒットアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」のテーマ曲のタイトルは「残酷な天使のテーゼ」。
庵野監督に、「エヴァンゲリオンのテーマは実は「やさしさ」ではないのですか?」ときいたら彼は何と答えるだろう。

中沢教授によると残酷とは「『人生とは必ず苦悩に満ちたもの』という現実を認識させること」だが、まさに「エヴァンゲリオン」ではシンジは、使徒(イエスの十二弟子)によって「残酷」を教えられる。これはおそらく監督ご自身の心理過程と平行していると私は考える。それと同時に日本中、世界中の「シンジ」たちがこの「残酷」に立ち向かう。でも、実はその先にあるものは、実は「とてつもないやさしさ」なのかもしれない。私自身は「シンジ」といっしょに、旅をしている途中のような気もしている。その答えはいずれわかるのかどうか、わからない。

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