2009年11月16日月曜日


「精神科」ときくと、あなたはどんな印象が思い浮かぶだろうか。
昔は「キチガイ病院」などと、毛嫌いされてきた。
確かに精神の病を患った人の中には、他者に危害を加える可能性のある人もいる。また、患者が普通の人の使う言語を失った場合、その人との普通のおつき合いが出来ない場合もある。
だから「精神病院」に対する否定的感情は、必ずしも理がないわけでもない。
しかし、昨今はクスリが飛躍的に改善され、先進国では精神病患者に対する考え方は大きく変わってきている。
その流れにしたがって我が国でも精神科医療は大きく変貌を遂げつつある。
嘗て「精神分裂病」と訳されていた、schizophreniaは、「統合失調症」と名称を改められ、より我々健常者と距離が近づいてきた。昔は、分裂病は不治の病とされ一生隔離されることもあったが、現在では通院して治療する例もあり、嘗てのような絶望的暗さはそうとう和らいだ。

ここに一つの精神科クリニックがある。
そこに一人の患者が訪れた。
意識はしっかりしているが、統合失調症特有のまどろんだ視線は明らかに精神の病をうかがわせる。
クリニックの受付の女性はもう慣れているので、患者との適切な距離をとりながら応対する。
初診なので、診察までに所定の用紙に必要な情報を書くように勧められ、彼はゆっくりと長椅子にすわって、受付から受け取ったボールペンで書き始めた。
書き終わり受付に前の病院でもらった紹介状と一緒に紙を渡すと、時間まで彼は長椅子にすわってじっと虚空を見上げていた。彼の視線の先には、やや大きめの何の飾りもない時計があり、その秒針が動くのを彼はじっと見続けていた。
時間が来て、診察室に呼ばれた。
医師一般にいえることだが、精神科の場合は特に、第一印象が大事だ。それは、双方ともにだ。
医師は、先に記入された用紙を見て情報を入れると同時に患者を見て、病状を判断する。
同時に、患者は患者でこの医師がどの程度信用できるかの値踏みをする。患者が医師を信用できないと判断した場合、治療は極めて困難になる。信用できない医者に対しては患者は心を開かない。そのまま信用を回復できなければ最悪、別の病院へ行ってもらうしかない。
そうならないためには医師の方が患者に信頼される印象を与えなければならない。医師はただ「見る」人だけではなく、信頼される人に「見せる」ことも必要なのだ。

「昭和45年生まれ、39歳。今は誰と暮らしているの?」
「両親とです」
「お父さん、お母さんと」
「はい」
「ご兄弟は?」
「姉が2人いましたが、一人は僕が小学生のときに病気で亡くなりました」
「何の病気?」
「癌です。子宮癌かなんか・・・ちょっと詳しくはわからないんですけ・・・」
「もう一人のお姉さんは?」
「結婚しましたが、離婚してうちの近くに子供2人と住んでいます」
「歳はいくつ離れているの?」
「上の姉とは14、下の姉とは7つです」
「ずいぶん離れてるね」
「は、はあ・・・」
「職業は・・・大学院生・・・多摩美術大学。タマビだ」
「はい」
「何ならってるの?」
「えーデザインです」
「ふーん。どんなデザイン」
「えーと、コミュニケーションデザインていって・・・」
「どんなことするの?」
「えー、あの口で言うのは難しいんですが、グラフィックデザインみたいな・・・」
「今は何をデザインしてるの?」
「えーと。コンピュータのインターフェースです」
「コンピュータのデザイン?」
「えーと、その、インタフェースっていって、コンピュータの画面とかってお年寄りとかには難しいと思ったので、もっと使いやすいインターフェースをデザインしようと思いました」
「ああ、それはいいよね。確かにコンピュータは使い方は難しいよね」
「はい」
「今は大学にはいってるの」
「はい、一応今年の4月から復学して。それまで2年間入院していたんで休学してました」
「今なんか、辛いところとかある?」
「時々、なんか落ち着かないような、内側から衝動が沸き上がるような辛さがあります」
「衝動って、どんな衝動」
「えーと、口で言うのは難しいんですが、何か内側からせかされるような・・・」
「内側ってどのへん?」
「だいたい胃のあたり」
「ふーん。それは、いつもなの?ない時もあるの?」
「あるときと、ないときがあるんです」
「今は?」
「今は、ないです」
「それから、昔はひどくてすごい辛かったんですけど、最近は段々減ってきた感じ・・・」
「ふーん。衝動ね」
「はあ」

医者は、紹介状をながめ様々な病名を思い浮かべた。しかし、紹介状を書いた医師のいう通り、統合失調症の回復期というのが最も妥当だろうと思った。抗精神病薬を続けていくしかないだろう。少しづつでも社会に慣れてもらって、社会復帰をしてもらおうと思う。
「じゃあ今日はこれで」といって医師が処方箋を書き出すと、患者は立ち上がり
「ありがとうございました」といって診察室を出た。

翌週、同じ時刻にその患者は現れた。
この前と違って、表情が険しく苦しそうにも見えた。
「次の方どうぞ」
患者はドアを軽くノックして、診察室に入った。
苦悩の表情で椅子に座った。医者は、その表情を見て少し心配になった。
「なにかあった?この一週間」
「・・・」
「なんか辛いことでもあったの?何か苦しそうだけど」
「・・・」
患者は苦悩の表情を微動だにせず、一点をずっと見つめていた。
医者はどこを突破口にしようか考えた。あまり、中に入り込むと危険だと感じたので、周りから責めていこうと思ったが、患者が何に反応するかはわからなかったので、手探りで診察を進めいくしかなかった。
「今の気分はどう?」
「(小声で)良くないです」
「どうよくないのかな」
「苦しい」
「苦しい・・・」
「・・・」
「どう苦しい?」
患者は眉間に皺をよせて、苦悩に耐えるように目をつぶって、頭をすこし上へ傾けた。
医者は、無言で患者の言葉を待って、患者を見つめ続けた。
患者は、必死に言葉を探しているようだった。自分が体験したことがない感情を何とか言葉にして伝えようとして、言葉が見つからないで苦しんでいる。ときどき、小声で独り言を、音になるかならないかほどにつぶやき、すぐに首を振って、「ちがう!ちがう!」と打ち消そうとする。
医者も今が極めて重要な時だとわかっているので、彼の口から言葉が出るのをいつまでも待ち続けた。
患者は医者の態度を確認して、深いため息をついて小声で話し始めた。
「実は、狙われてるんです」
「狙われてる?誰に?」
「それはいえません」
「どうして君が狙われているの?」
「僕はが以前、政治的な発言をしたことがあって、僕は思想的には「左」なんですが、多分右寄りの人たちがそれに怒ってやっているんだと思います」
「そんな、大変なことを言ったの?」
「いや、大変というよりも。以前、少年法時改正のときに少年に風当たりが強くなって、皆が少年を厳罰化すべきだという雰囲気の時があったんですよ。そのときに僕が厳罰化反対とはっきり言ったことがあります」
「うーん。それで、どんな風に狙われてるの?」
「狙われていると言うか、すごいいやがらせですね」
「どんないやがらせ?」
「例えば、うちの上空を飛行機やヘリコプターが一日に何度も、大きな音をだして飛んでいたりとか・・・」
「うーん。でも、うちの上にも飛行機やヘリコプター飛んでくることあるよ」
「それが、毎日ですよ。しかも一日多い時で10回以上」
「いやがらせはそれだけ」
「いいえ、他にもあります」
「どんな?」
「まず、明らかにこの人たちはコントロールされているなという人が街に何人もいたり」
「どうして、コントロールされてるってわかるの?」
「例えば電車に乗ったときに、向かいの席の人が全員うつむいているとか」
「う~ん」
「あとは、色々なものが変えられている」
「変えられている?例えば?」
「例えば、うちの隣の家は30年以上普通に住んでいて、きれいな日本庭園があったんですけど、僕が病院から帰ったときにぴったりそのときに取り壊されなくなってしまったり、あとは僕の最寄りの駅が、僕が2年前入院したときに改築したんですけど、それがまた全然違う建物になっている。2年前に改築したばかりでまた改築するなんて普通ではあり得ないでしょう。それから、学校へ行く電車が全て各停だったのが、線路が増えて急行ができてたり。乗り換える駅の前は再開発の大工事中ですよ。ずっと通ってたカルチャーセンターの地下の商店街がすべて閉鎖されて壁になっていたり、10年以上同じだった受講券が違うものになっていたり。あと、商品も変わっていて、まずタバコのパッケージが変わった。僕は今は吸わないけど、昔吸ってたマルボロだけは変わっていないんですよ。不自然だと思いませんか?さらに、僕の住んでいる吉祥寺の街が変えられているかもしれないと恐る恐る、訪問看護の人と一緒に見に行ったら、7割方店が変わっていて、残りの店もほぼ全て改装されていました。これだけのことがちょうど僕の退院のときに重なるなんて、偶然だと思いますか?さらに商品のパッケージデザインもほとんど変わってるし、建物も2年前にあったものがなくなり、新しくなっている。偶然そう感じるだけじゃないですよ。僕は前に病院ではっきり言ったんです。敵の性格からいって、僕にプレッシャーをかけても僕は変わりませんから、今度は周りにプレッシャーかけてけて変えてやろうと思うだろう。だから、病院の閉鎖病棟で外に出られないときにも、街が変えられると心配してました。そして、まさにその通りになったのです。だから、たまたまそう思ったというわけではありません。
僕がデザインを勉強しているからデザインでいやがらせをしてやろうと思ったんじゃないですか。デザインの中身では勝負できないので物量作戦で、これだけたくさんデザインを変えてやれば、自分の力を見せつけられるので、それで、こっちが恐がって政治的立場を変えるとでも思たんじゃないでしょうか」
「・・・でも、それらの変化が本当に鈴木さんへのいやがらせのためにやられたのかねえ?そこまでするには相当お金もかかるでしょう。そこまでしてまで鈴木さんをやっつけなきゃいけない理由があるんですか?一度カルチャーセンターで発言しただけでしょ?」
「それから、僕の書いた小説を有名な学者に見せたこともあります。それで、カルチャーセンターは日本を代表する学者が集まってくるところだから、そこで僕のことが話題になった様子なんですよ。だから、僕が発言することで学者が本を書いたりして、それで世論の論調が変わったりするすることがあるのです。だから、その元になってる私をまず黙らせようと考えたんじゃないですか。敵の言いなりになる人ばかりの中で、一人言うことをきかない人間がいると、他にも反発する人が出てくるかもしれないから僕を叩いて、逆らうとこんな苦しい思いをするぞという見せしめと自分たちの力の強さを見せつけ、かなわないと思わせて怖くて逆らえないような脅しの部分んもあるんじゃないですか。実際そうされると、怖くてしたがっちゃう人がものすごく多いんですよ、日本では。ほんと、驚くほど多いですよ」
「君は、犯人は誰かは知っているのかい?」
「だいたいあの辺りだなというのはわかりますし、固有名詞も浮かびますが証拠がないのに名前を出せば名誉毀損になるので今はいえませんが」
「あのあたりって?」
「だから、右翼とかそれに近いあたりじゃないですか」
「固有名って右翼の?」
「いえ違います」
「どんな関係の人」
「テレビとかで色々意見を言ってたりする人でこの人かもしれないというのがいるんです。名前は、証拠がない間はいえませんが、証拠が出てきたらもちろんいうし、警察にいって逮捕してもらいますよ。今はタレントをやってるBとだけ言っておきましょう。ところが、困ったことにパソコンとかもいじられていますから、パソコンや携帯がおかしくなったときにすぐに警察に電話してきてもらったり、出向いたこともあるんですが、警察は機械のことはぼくらわからないからメーカーに聞いてから来てと、なんか面倒なことにかかわりたくないという態度が見え見えなんですよ。
そういえば、鉄道会社の制服もほとんど、この2年で変わったんですが、警察の服やパトカーのデザインも変わったんで、最悪その圧力が警察にまで及んでいる可能性もあると考えています。ですから、犯人を逮捕するためにはまず警察の自浄をしなければならないと思います。あと、本も新書とか文庫のデザインが変わっていたり、雑誌が無くなっていたり、マスコミにも圧力がかかっている可能性が高いです。デザインの変遷を細かく調べていけばこの2年に突出して変わったというデータが出るはずです」
「でも、デザインってよく変わるからね・・・」
「それが、尋常じゃない量で、しかも僕に関わりが深いものが集中的に変わっているんですよ。偶然であり得ません」
「確かに色々変わったかもしれないけど、今の時代の東京なら2年経ったら相当変わるよ。2年あれば全然違うものに見えることもありうるんじゃないかな。それに、君の周りだけが変わったって言うけど、じゃあ他の街には行ったの?」
「知らない街なら変わったか、変わらないかわかりません」
「まあそうだね、でも街が変わったのが君へのいやがらせだとしたら随分お金をかけたいやがらせだね。だいたい、テロリストに対してだってそこまではしないと思うよ。そんなに君は敵から見たら危険なのかい?」
「さっきも言った通り、一人逆らう人がいればそれが蟻の一穴になってみんな逆らうかもしれないし、僕が怖いというより、俺たちに逆らったら怖いぞというメッセージとしてやっているんだと思います」
「それで、君はどうするの警察も圧力かかっているんだろ。どうやって戦うんだい?」
「一応blogで僕の意見は発表しています。僕は民主党支持なので、民主党が政権をとることで、僕に有利な状況が生まれることはありうると思っています。今回の選挙でもblogでも僕は民主党を応援するblogを工夫して作りましたし」
「でも、君のblogを見る人が何人ぐらいいるかな・・・何人ぐらいに教えたのアドレスを?」
「親戚やカウンセラー以外は、一人有名な学者に見せました」
「一人・・・」
「でもその人も民主党に人脈があるし、学者や政治家やマスコミ人がよんでる可能性は高いと思います」
「どうしてわかるの?」
「書いてあることや、発言が僕のblogの言葉と一緒だったりするんです」
「例えば」
「例えば、鳩山首相が選挙後に『これがゴールじゃない今はスタートラインに立った時だ』といいましたが、これは僕のblogに書いた言葉です」
「でも、その言葉は私は昔からよく聞いたような気がするな。いわゆる常套句ってしってるかい?」
「他にも、外国とはwin-win関係であることが望ましいとか・・・」
「僕はその言葉は、ニュースで何度も聞いたよ。君の専売特許じゃないだろう。あのね、君の病気の特徴というのはね、色んなことを繋げて考えちゃうことなの。それで、それを信じ込んで疑問を一切拒否する態度を取るの。だから、「スタートライン」も「win-win関係」も昔からみーんな言ってた言葉なの、それを、自分のblogの言葉と総理大臣が言った言葉が同じだからって君のblogを総理大臣が見たっていうのは、もすごーく離れたもの同士を繋げちゃう君の病気の特徴なのね、だから、なんか変化があったらきっと裏で操っている奴がいる、僕をいじめる奴がいるってすぐ思っちゃうの。あのね、昔僕の患者でね自分は火星から電波が送られてきて動かされてるって人がいてね、その証拠に自分には超能力があって信号を変えられるって言うんだ。そして、信号の前に行って待ってるとしばらく念力をいれてね、その念力は2~3分かかるんだって。それで、信号が変わったから自分は超能力があるって言い張るの。でも2~3分経ったら信号って変わるよね(笑)。そうやって、何でも自分に結びつけて考えちゃうのが君の病気の特徴なんだ。だから、これからは、俺へのいやがらせだぞ!と思うよりも偶然こういうこともあるよねって考えた方がいいんじゃないかな。その方が楽だよ人生。何もかも自分と関係あると思って、自分がblogを書いたらそれで総理大事の態度が変わるなんて思ってたら、生きてくのが重くてしょうがないでしょ」
「・・・」
患者は、少し落胆した様子だったが、先程の苦悩の表情は消えて力ない足取りで帰って行った。


翌週、またその患者はクリニックを訪れた。
今日は何かに苛立ちを持っているように見えた。
「どうですか?この一週間は」
患者は、医者の服装と腕時計に目を向けた。
医者は患者の態度に今までにない、一種の攻撃性のようなものを感じた。
「またblog書いた?」
「はぁ」
「どうだい、反応あったかい?総理はまだ読んでるの君のblog?」
「(小声で)そう思います」
「なんか、今言いたいことがあるのかな?」
「まぁ・・・」
「何?言ってごらん」
「コントロールされる人の度合いが強くなりました」
「街に出ると、誰かにコントロールされてる人が沢山いると」
「はい」
「その量が増えた?」
「量だけでなく、見た目も変わりました」
「ふ~ん。どんな風に?」
「僕は今までファッションにうとい『ダサイ奴』でしたが、デザイナーになる以上ファッションも少しは知っておかないといけないと思っていとこに代官山、や表参道の洋服屋さんに見に連れてってもらったんですよ」
「うん」
「そして、その日はリーバイスのシーンズ買っただけだったんですけど、すごくいい刺激になって楽しかったって叔母にFAXしたんですよ」
「うん、それは良かったね」
その後、患者の顔が急に曇った。
「それからしばらくして、街を歩いていると、何かみんな雑誌に出てたようなファッションしているんですよ」
「雑誌で出てくるようなファッションていうのはお洒落なっていうこと?」
「まあ、おしゃれっていえばおしゃれですけど、普通の人があまりしないような重ね着とか・・・」
「最近は若い子はみんなお洒落になってるんじゃないの?」
「いや、以前にもおしゃれな娘はいたにはいたけど、それが、街中の人全員なんですよ。普通のおばさんやおばあさんは昔は地味だったけどいま僕が行くとこ行くとこみんな、スタイリストがついたような素人では思いつかないような派手な格好をしているんですよ」
「でも、君は今までファッションに興味なかったんだよね」
「はい」
「それで、最近ファッションを勉強しようと、デザインのために・・・」
「はい」
「だったらあれかな。周りが変わったんじゃなくて君の見方が変わったから他の人の服装も気になりだしたんじゃないかな?」
「それはありません。以前でもおしゃれな人とそうでない人の区別ははっきりできました。ところが今起こっているのは、僕の行くとこ行くとこどこでも全ての人がどこか派手さを出した格好をしているんです。しかも、普通の人だけではないんです。カルチャーセンターで教えている偉い学者で権力に批判的な人までも急に色つきのシャツを着たりストライプのシャツを着たり、ボタンダウンのシャツを着たり、今までもっとコンサーバティブな格好していた人がことごとくなんです。学校の先生も、カルチャーセンターの先生も、ギターの先生も、編集の先生も、ビデオの先生も、教会の神父様までも一斉に変わったんです」
「うん、だけどね、僕も色つきのYシャツや、ストライプのシャツは持っているし時々気分を変えたいときには着るよ。それがそんなにおかしいことかい?」
「それが、丁度僕がファッションに興味をもったときに一斉にあらゆる人がお互いに知らない人たちが、変わったというのが不自然だと言っているんです」
「でも、季節の変わり目とか、何かブームがあった時とかにみんなが一斉に変わることはありうると思うよ」
「全ての人がですよ!おじいさんやおばあさんもですよ全ての人がファッション変えるきっかけってなんですか?」
「それはわからないけど・・・。でも、君のいうことが正しかったら敵は君の周りの人全員に服装を変えさせたということになるね。しかも、街や電車の中の人も?君がどこへ行くかは君しか知らないのに、東京中の人の服装を変えさせたって事かい?どうやってそんなことができるのかな。何千何万人のスタッフがいなきゃ出来ないんじゃないか?そんなことは、どんな政治家でも出来ないんじゃないかな?」
「先生は今日、赤い柄のシャツを着てらっしゃいますよね」
「え?ああ、これ?これはね、3年前ハワイで買ったので、久々に今日は級友に会うので着ようかと思って(笑)」
「時計も随分立派なものを着けてらっしゃいますね。僕の記憶にはないんですけれど」
「ええ!そう?これは、時々付けるんだよ、今日はシャツが派手だから目立ったのかな?(笑)」
「実は僕の持っている腕時計はスポーツ用なのでスーツのときに合わないと思って時計を買おうと思ったんですよ。でも、どれを買っていいかわからないので時計関係の本を沢山買ったんですが、それからすぐに周りの人たちがいかにも高級って感じの腕時計をしているとこに何度も出くわしたんですよ。普段腕時計を付けていない人もですよ。そしたら、今日先生は高級腕時計をされてる。これも偶然ですか」
「・・・(小声で)まぁ、そうですね。偶然でしょう。たしかにたいへん珍しい偶然ですが」
「僕は服装のいやがらせが起こったときに喜んだのですよ。何故かと言うと、無意識に洋服を着たり腕時計を付ける人はいない。もし、なんらかの圧力がかかったなら、その人は圧力を受けたことは必ず自覚していることになる。その中にわずかでも勇気のある人がいれば誰に、どのように圧力をかけたかを証言してもらえる可能性があるからです。そこで、先生に質問させてください。今日着ている服、腕時計についてだれかから指示や命令や提案を受けましたか?それともご自分でお決めになりましたか?」
「天地天命に誓って、誰からの指示も命令も一切受けてません。間違いなく、私が決めました」
「そうですか。よのなか偶然ってあるもんですね」
「・・・」

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